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医療法人ラザロ会 江口クリニック

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院長コラム

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慢性疼痛の治療と問題

通常、リウマチなど持続的に炎症が惹起されている病気を除いては、慢性に続く痛みにたいしてNSAIDs(いわゆる痛み止め)は効果がありません。先に述べたような、慢性疼痛について理解いただいたうえで、その心理的影響について気づいていただくとともに、痛み止めは痛み止めでも、「抗うつ薬」・「プロガバリン」・「オピオイド系」(麻薬系)・抗てんかん薬などを使うのが定石になっています。

近年、プロガバリンやオピオイド系が疼痛一般に使用できるようになって、多少、治療はしやすくなってきましたが、これらの薬は、総じて、眠気、ふらつき、嘔気・嘔吐などの副作用の頻度が高く、効果はあるのだけどしんどくて飲めないといわれる方もおおいのが実情です。特に、ご高齢の方が、プロガバリンを服用されて転倒する場合、必ずしも「ふらつき」を自覚されない場合も多いのです。最初、診察のたびに「眠気やふらつきはないですか?」と聞くのですが、「ありません」と答える。でも、診察のたびにあちこちに転倒してのアザが増えくるのです。

また、「抗うつ薬」、「麻薬系」、「抗てんかん薬」の場合、その名称が、おどろおどろしく、患者さんが、服薬に抵抗を示す例も多いという事実もあります。痛みは、「気のもの」ですから、嫌な薬を無理やり飲ませられているという風に感じられれば、効く薬だって効きませんし、お寺参りの方がまだ有効だと思いますので無理に処方することはありません。だだ、一応、現在のところ、これらの薬の効果には科学的な裏付けがあり、慢性疼痛の治療の定石とされているものだということを理解していただければ幸いです。

副作用でどうしても十分な量が服薬できない、また、効果はあるが限定的でまだ不十分である場合には、その他の有効性の報告があるような薬を試行錯誤して使うことになります。極めて限定的ですが、明らかに効果があると考えられる漢方薬などもあります。一度、症状を消してしまう目的で正常神経節や硬膜外ブロックなどのブロックも効果がある例があります。

非薬物的には、軽度の運動、マッサージやストレッチ体操なども、皆様が想像されているより意外に効果がある場合もあります。

慢性の痛みは一筋縄ではいかないものです。よく病態に対して理解していただくとともに粘り強くあきらめないで治療していくことが大事だと思います。

急性糖尿病―ペットボトル症候群

夏の暑い時期、咽喉が乾くので水分をとる。それは、たいへん良いのですが、この水分を缶コーヒーやジュース等、甘みすなわち糖分を含む飲み物でとった場合は要注意です。糖尿病予備軍の方、あるいは少し年齢を召された方では、急に血糖があがってしまって、糖尿病になってしまうことがあります。これは、ペットボトル症候群と名前が付けられているほど有名な(=よく遭遇する)病態です。ご高齢の方には、結構見受けられるのでご注意ください。

腰部脊椎管狭窄症

腰椎のレベルで神経を取り囲む様々な組織(骨や靭帯や椎間板組織)の変化によって下肢に向かう神経が圧迫されて生じます。歩いていると腰や脚が痺れたり痛んだりします、腰を下ろしてしばらく休憩するとまた歩けるようになるという間歇跛行が代表的な症状です。自転車だと休まなくてもこぎ続けられるというなら、ほぼほぼ診断は決まりといってもいいでしょう。治療としては、血管拡張剤や神経性疼痛治療薬の服用が、まず、一般的なところでしょう。症状が強いならば硬膜外ブロック等も有効です。もちろん、痛みが出るような行動を避けることは重要です。

この病態では、椎間板ヘルニアのところでも書きましたように、腰を伸展させると症状は悪化しますので杖を突く、手押し車を押して歩くなど少し腰を前傾させたような姿勢で歩くのがいいのですが、ご年配の方にアドバイスしても、「恰好悪いのでいや!」と拒否されまた、移動は自転車に乗りましょうと言うと、「危ないので自転車には乗らない」と言われてしまい(実際、危ないのですが)、現実的にはなかなかうまくいきません。腰椎のコルセットも過度の腰部の運動を抑制する意味では有効でしょう。

さて、本病態で手術を考える場合には、以下の二つの要素を考えるのが良いと思います。椎間板ヘルアニの時には、創も小さく、背骨を削る必要もほとんどないため、長引くようならさっさと手術してしまうのがいいかもと書きましたが、本病態では、少し慎重になったほうがいい場合もあると思います。

まず、一つは、腰椎にズレがあるかどうかです。これは「腰椎すべり症」のように一目、背骨同士が前後にずれている場合と、背骨を前屈後屈させた時のずれが大きい場合(不安定症)等があります。この場合には、骨や靭帯を切除して神経の圧迫をとると同時に腰椎の固定術を合わせて行わなければなりません。背骨と背骨の間に骨を移植し、当面、外れない様に、金属のプレートで背骨同士を固定するというものですから、手術時間も長くなり、創も大きくなり、また、神経を損傷する危険性もあり少し慎重になるほうがいいかもしれません。私の個人的な感覚では、手術する方法としても、固定する場合は固定のない手術よりも3~5倍ほどしんどいかなと思っています。もう一つは、症状が典型的な間歇性跛行のように両側下肢に全体にでている(中心型な)のか、一つの神経の領域に限局してでている(外側型な)のかです。前者の場合は、手術の成績も大変よいので症状が強く薬があまり効かないのであれば、さっさと手術してしまってもいいと思います。後者の場合は、神経の圧迫部位が明確であればいいのですが、中にはその同定が難しい場合や、除圧が困難な場合も多く、手術の成績は前者ほど芳しいものではありません。可能な限りは、保存的治療で粘るのもよいかなと思っています。

心因性疼痛

様々な検査をしても原因となる組織的な病変が見つからないような慢性の疼痛は、心因性疼痛、組織病変のない自発性慢性疼痛などと呼ばれています。MRIを撮影して「何もないよ」、「気のものですね」といわれるような場合です。別にも書きましたが、これも立派な「疼痛」です。

ただし、「何もない」ということを証明するのは現実的にはかなり難しい場合もあります。MRI一つにしても、下肢の症状なら、腰椎・胸椎・頸椎・頭蓋内を撮らなければならないこともありましょう。また、単純MRIだけではわからないこともあります。上肢が痛み、「他院の頸椎MRIで何もないといわれた」と言って来られた方があります。確かに、MRIをみても何もないのですが、診察してみると明らかに一本の神経の症状が強く出ています。また、上半身を裸になってもらいますと明らかに一部に筋肉の委縮がありましたので、造影剤を使ったMRIをしてみますと、神経の腫瘍が見つかったケースがありました。MRIだけでなく、神経伝達速度や体性感覚誘発電位などの電気生理学的な検査が必要なこともあります。また、有機溶剤暴露や、ビタミン欠乏症など考えだすと実際の診察室で、片っ端からすべてをやりつくすというのも疑問ですので、必要に応じて追加していくようにしています。

また、ある時までは確かに心因性疼痛であった慢性下肢痛(MRIでも責任病変がなかった)方が、急に、坐骨神経痛を発症(少し症状が変化)したので、MRIを再検査してみると、今度は新たに椎間板ヘルニアが出現していたような例もありました。

私的には、ある程度は「火のないところに煙は立たない」的な見方が実際的なのかなと思っています。つまり、ある痛みを訴えるにはそれなりに、何らかの器質的な異常(非常に軽微な異常であって通常ではそれほどの症状をきたさない程度)があり、その僅かな異常信号を、なんらかの心理的要因で過敏になっている意識が認識してしまい、それに注目して痛みを膨らませていくという悪循環構造になっている。

「心因性」あるいは「組織病変のない」慢性の疼痛と考えられる例であっても、常に、何らかの隠れた器質的な病変が関与しているのではないかという意識をもっておかねばならないように思っています。

高血圧と認知症

高血圧が、アルツハイマー型認知症の危険因子の一つであることはよく知られた事実です。といっても、高々、1.5倍程度の危険率比にすぎませんが。頭の中の血管は、高血圧に弱く、高血圧が続けば頭の中の血管の動脈硬化によって隠れ脳梗塞が増えていって、当然、脳の働きが低下するので、それが加算されて認知機能も悪化するのは当り前ではないか!と言われるかもしれません。ただ、そういった単純なメカニズムにくわえて、記憶をつかさどる海馬のCA1セクターという領域が、他の神経細胞にくらべて特に虚血に弱いこと。さらに、最近の基礎研究では、脳虚血によって生じる物質がBACEを増加させAβ(アルツハイマー病の起因物質)を増加させること、また、Aβ自体が脳血管の自動調節能を障害するという独自のメカニズムも知られるようになってきたのです。ただ、もはや高齢になった段階で、過度に血圧を下げてしまうのはむしろ認知症を悪化させるので要注意です。あくまで降圧は中年期の若いうちからやっておかねばなりません。

また、最近、血圧を下げる薬(降圧剤)の種類によって認知症の進行に差が出る可能性があるのではないかという基礎研究の報告もあります。たとえば、ACE阻害剤という種類の降圧剤では、ACEがAβを分解する作用まで阻害され、結果的にはAβを増加させること、また、神経に保護的に働く作用のあるAT2という受容体も阻害してしまうので認知症を悪化させる可能性があるという報告が出てきています。まあ、実際の臨床の場で降圧剤を変えたところで認知機能に明確な差が出るという気は全くしませんが、毛の先ほどでも有利になるなら・・・、という気で降圧剤の選択をしています。