認知症の治療薬Ⅱ(周辺症状の治療薬)
アルツハイマー病の症状は中核症状(認知障害)と周辺症状(精神症状・問題行動)分けられます。中核症状に対する薬は、二種類あります。一方、周辺症状に対しては、症状によって種々の薬を使います。私は、中核症状に対する投薬を「患者さんのための」治療、周辺症状に対する治療を「家族のための」治療(結果として患者さんのための治療)というように説明しています。中核症状に対する薬は、文字通り認知機能を改善するための薬ですが、周辺症状の治療は、認知機能を改善させるのではなく問題行動を抑制し、家族の方と家で共に過ごせるようにするための薬だからです。現時点で、アルツハイマー病その他の認知症は根治できる疾患ではないので、最終的には施設介護になることが多いのです。したがって、認知症の治療の目標は、より長く自宅で家族とともに生活できる期間を延長することにあります。徘徊や不潔行為、妄想、暴力行為などの周辺症状が強いと、家族や介護者が疲弊し、家での介護が困難となり結果として施設介護に移行せざるをえません。したがって、家族の苦労を軽減させる(家族のための)治療ではあっても自分の家での療養期間を長くすることができ結果的には患者さんのための治療にもなります。
周辺症状は、落ち込んで動かなくなる、食べなくなる等の陰性症状と落ち着かない、攻撃的、徘徊等の陽性症状まで多彩な症状がありますので、様々な薬を使い分けることになります。中核症状は、まあ、誰がやっても使う薬は似たり寄ったりですが、周辺症状の方は選択肢が多い分だけ腕の見せ所という感じがします。
多くの場合、こういった周辺症状を抑制する薬には、ふらつきや、身体が動きにくくなる(パーキンソン症候群)といった副作用もあります。また、御高齢や脳の委縮が進行している方では、特にそういった好ましからざる症状が出やすいように思います。ごく少量で少しずつ調整していくことになります。認知機能そのものを改善することは困難ですが、こういう周辺症状が軽減し、患者さんの表情が明るく穏やかになり、介護する家族にも笑顔が出るのは、治療する側としても喜ばしいことです。