神経障害性疼痛 その2
この疼痛は、器官から脳味噌までの痛みを伝える神経経路のどこかに損傷があって生じるということが前提です。となれば、痛みを感じる部位、範囲が非常に重要になってきます。なぜなら、身体のどこにどのように知覚神経が分布しているかは、みなさんおおよそ決まっているからです。逆にいえば、神経経路のある部位が障害されたならば、それによって生ずる感覚障害や疼痛の範囲は解剖学的におおよそ決まっているのです。ですから、ある人が、「ビリビリと痛む」と言っても、その部位と範囲が、解剖学的な神経の分布とあまりにかけ離れている場合は、神経障害性疼痛である可能性は低いと言わざるをえません。その逆に、常識的な神経の分布に一致して痛みが広がり、おまけにMRIなどの画像診断や筋電図などの検査でなんらかの損傷が認められればほぼ確実ということになります。こういった解剖学的な神経分布と乖離した疼痛部位、あるいは、毎回、あちこち体の違う部分痛みを訴えてこられる場合には、いかに、ジンジン・ビリビリしていようとも神経障害性疼痛ではなく、心因性疼痛(真の意味での「気のもの」の痛み)である可能性が高いということです。
とまあ、理屈ではいかにもクリアカットなのですが現実には難しいこともしばしばあります。もう10年ほど前になりますが、ある方が、左の太腿の痺れを訴えられていました。某大学病院では、頸椎症の診断を受けておられました。確かに、頸椎の変形は強いのですが、手の症状が全くありません。また、徐々に、左太腿の力も低下してくるのです。明らかに、何らかの器質的な(おそらくは脊椎の)異常を疑います。大きな病院に紹介して、何度も胸椎や腰椎のMRIを撮影しても何も映りません。神経内科で変性疾患などの有無も見てもらいましたが何も見つかりません。ついに、脊髄の血管造影という検査を2回も行ってようやく胸腰椎レベルに小さな動静脈奇形という病気が見つかりました。その反対に、強い下肢の痛みに対して腰椎に小さな椎間板ヘルニアなど一見では紛らわしい所見があった場合にはさらに要注意です。その痛みが心因性であった場合にはよくなるどころかかえって症状が悪化してしまうことも多いからです。