坐骨神経痛の原因として一般的には、もっとも有名なものかもしれません。背骨(腰椎)と背骨の間にある椎間板という機構の内部にある髄核が周囲の隔壁を破って飛び出した状態です。これが腰の神経を圧迫して神経痛を起こします。力学的関係からか5個ある腰椎の下の方によく生じます。この場合には、坐骨神経痛(臀部~大腿後面~下腿~足へ放散するような痛み)を生じるのですが、中間あたりのヘルニアでは太腿の外側、上の方に出るヘルニアでは、鼠径部や大腿全面に痛みが出ます。手術するかしないかは悩ましい場合もあります。
絶対に、急いで手術しなければならない場合は、ヘルニアが巨大で通常のヘルニアの様に一本の神経にあたるのではなく腰椎を通る神経全部を圧迫し、排尿や排便に障害をきたし、下肢全体に麻痺が生じるような場合です。
それ以外は、手術するかしないかはケースバイケースということです。上記以外は命にかかわるような大きな障害がのこる病気ではないですから、患者さんの判断が優先されることになります。自営業で仕事を休めないという方で、神経麻痺があり足首が上に向かない状態で、手術を拒否され足首にバンドをまいて仕事を続けられた方もあります(仕事ができているわけですから問題ないといえば問題ないのです)。ただ、以前に比べて技術が非常に進歩しているため、典型的なものでは、背中を手指2本分ぐらいの幅を切るぐらいで手術できるようになり入院期間も短くて済みますので、仕事や日常生活に支障をきたすような痛みや麻痺が1か月以上も続くようなら手術を考えたほうがいいかな・・・というのが個人的な印象です。また、仕事は休めるがその期間を短くしたいという場合でも手術のほうが有利でしょうか。
ただ、典型的な例ではそうなのですが、下肢痛には心因性の場合も少なからずみられます。下肢痛がありMRIで小さなヘルニアがあり、強い痛みがあるというだけで安易に手術すると改善しなかったり、かえって悪化したりする場合さえあります。とても痛い場合でも、医師がMRIをみて少し首をかしげているようなら、あまり強く手術をしてくださいと迫らないほうがいいでしょう。
また、腰椎椎間板ヘルニアの場合、術後一年での同一部位再手術例は5%、10年では10%という報告もあります(私の個人的な経験では3回同一部位に再発した例はありません)。
激しい運動はともかく、日常生活が一応おこなえて、家事や仕事も休まずにできているなら保存的治療。とにかく早くケリをつけたい、仕事を休まなければならないような状態が1~2か月も続くようなら手術を考慮されたほうがいいでしょう。また、中位~上位にあるヘルニアはたいてい手術しなくても済むというのが個人的な印象です。