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医療法人ラザロ会 江口クリニック

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院長コラム

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頸椎症・・・腰椎症との違い

頸椎の椎間板ヘルニアと申し上げると怪訝な表情をされる患者さんもおられますが、椎間板ヘルニアといえば腰椎じゃないのか?という感じです。頸椎も腰椎も背骨に違いありませんから、変形性頚椎症もあれば、頸椎椎間板ヘルニアもあれば、頸部脊椎館狭窄症だってあります。脊椎の変形などの加齢性変化によってその中を通る神経が圧迫されるのですから、腰椎にみられるものはおおむね頸椎にもあるのです。極めて雑に言うと、腰が痛くなる代わりに首や肩が痛くなり、下肢が痛くなったり痺れたりする代わりに、上肢が痛くなったり痺れたりするだけの違いです。

背骨の動きによって悪化するところも同じです。腰部脊椎管狭窄症では、自転車をこぐなど、やや腰を前屈させると症状がでないと言いましたが、頸椎でもほとんどの場合、首を後屈させることによって悪化します。

腰椎の場合に、1本の神経が圧迫されて神経痛・麻痺をきたすタイプ(外側型)と神経の束全体が圧迫されて下肢全体の症状があるタイプ(中心型)がありました。頸椎の場合にも、同様に1本の神経の神経痛・麻痺をきたすタイプ(髄節型・根症状型)と頸椎の中を通る神経全体が圧迫されて症状をきたすタイプ(脊髄症型)があります。

さて、ここのあたりで少し話が違ってきます。腰椎の場合ですと中心型の場合は、圧迫されているのは末梢神経の束です。これはある程度可塑性もあり、不便を感じている患者さん本人が我慢できさえすれば、こちらから手術をしろという筋合いのものではありません。我慢して我慢して手術しても手遅れになるということはありません(程度問題ですが)。しかし、頸椎の場合は、圧迫されているのは末梢神経の束ではなく頸髄という部位です。これは、延髄(必殺仕事人が針を打ち込む部位)の下に続く部位で、中枢神経、すなわち脳味噌の一部になります。脳卒中(脳梗塞や脳出血)後、半身麻痺が後遺症として残ることはよく知られていることと思います。中枢神経系は一度損傷されると回復が難しいとされています。同様に、頚椎症の場合でも、あまり我慢を重ねて、症状が進行し中枢神経である頸髄自体がひどく損傷されてしまってから手術をしても後遺症が残る場合があります。こういう場合には、患者さんの苦痛がさほどでなくても、医師の方から手術したほうがよいと積極的に薦める場合もあります。

認知症の治療(中核症状の治療薬)

本邦における信頼のできる複数の調査で、高齢になると6人に一人が罹患するという認知症。その多くは、その予防に関しては、あれがよいこれがよいと様々な報告が出ていますが、現時点で確実に有効な(科学的に検証されたデータ)はないというのが現状です。また、治療に関して、アルツハイマー病に対する、アリセプトの様なコリンエステラーゼ阻害剤とNMDA拮抗阻害薬が出て以来、最近、新しい薬剤は出ていません。また、これらの薬にしても、病気の進行を遅らせることができても完全に止める効果はありません。

治療薬に目新しいものはありませんが、最近、認知症や運動障害の鑑別に、MRI以外に、SPECT(脳血流検査)やDATスキャンや心筋MIBGが外来での検査として利用可能となってきていますので、非定型的な認知症の診断に関しては、以前の様な臨床的印象だけでなく多少、客観的データを使えるようになってきました。・・・まあ、診断できても治療薬はないのですが。

漢方薬について・・・効くまで時間がかかる? 効果が緩い? 副作用がない?

答えは、ノーです。小生は、結構、漢方薬を使うほうだと思っていますが、小生のような外科系で気の短い者が、効果が出るまで二年も三年もかかるような薬を使うわけがありません。効くから使うのです。もちろん、いくつか使い方がありますので、効果が緩いが副作用の軽さを期待して使う場合もありますが、すべてがそうではありませんが、極めて即効性で、効果の強いものもあります。

即効性強力の代表は、芍薬甘草湯でしょう、こむら返りの薬としてかなり有名になっています。葛根湯は、風邪のひき始め、ぞくっと寒気が来た段階で、服用すればよく効きます。抑肝散は、NHKで取り上げられてから認知度が急激にupしましたが、確かに、妄想や認知症の問題行動に一定の効果があります(ただし、効果が強くはない、そのかわり副作用が少ない)。一般に、便秘や腸を動かす漢方薬は、効果が強いようです。大建中湯等、多くの消化器外科で、麻痺性イレウス対策に用いられています。下剤である桃核承気桃などは合う人だと、一日に2~3回トイレに行くのだけれども非常にすっきりして気分がいい、イライラしなくなったといわれる方もあります(便秘以外に対する効果も期待して使っているわけです)。いずれも、即効強力型です。

一方、通常の薬が副作用で飲みづらい人に、体調の改善を待つ間に副作用の少なさを期待して使う場合もあります。半夏厚朴湯、六君子湯、香蘇散などでしょうか。

一般に冷えは体が冷えると悪化しますので、冷えて痛むという訴えが強い人の場合には、体を温める作用のある漢方を加える場合もあります。生理に伴う頭痛に、当帰芍薬散が非常に効果を発揮することもあります。

上述のように、ある症状に対して処方する場合もあれば、非常に訴えの数が多い人、これといった強い症状がないが、なんとなく体調がすぐれないような場合や、子供さんなどには、症状にかかわらず「証」によって処方する場合もあります。「証」というのは、漢方薬を処方するための漢方独特の身体所見で、「舌」や「腹」、「脈」などの特徴で判断します。したがって、「証」が一致すれば、症状が何であっても効くということです。こういう薬の場合、「何に効くんですか?」と尋ねられますが、「あなたの身体の不調全体の調節に効く」というより答えようがありません。

さて、効くのですから、当然、副作用もあります。漢方薬だから副作用がないというのは全く誤解であります。即効強力型の代表選手、芍薬甘草湯は、例えば一日3袋を、続けて飲めば、かなり効率にむくみをきたす方が多いようです。一日1袋ではまず問題はありません。地黄系の漢方薬(牛車腎気丸、八味地黄丸等)の消化器症状の副作用は有名です。

精神的要因の疼痛への関与

痛みは、「気のもの」なのですから、当然、心理的な要因は、痛みの感じ方に大きな影響を及ぼします。慢性の下肢痛をずっと訴えられていた患者さんが、転倒して上肢を骨折し手術をしたような場合、当面、下肢痛を訴えられなくなるのが普通ですし、また、家族に不測の事態が起きてその収拾に没頭しているような時には、それまであった慢性の痛みを感じなくなっているというのもよくあるケースです。逆に、家族の病気をきっかけにして、それまであった腰部脊椎館狭窄症による軽度の神経痛が急に悪化し、手術をしたが非定型的な神経痛が下肢に残存したというような例もあります。

患者さんの中には、「心理的要因がかかわっている」といわれるのを極端に嫌う方も多くおられます。しかし、それは、「それほど痛くないのだ」と否定されているわけではなくて、りっぱな「疼痛」の原因の一つだといわれているのです。痛みは、すべからく「気のもの」でありますので、これは当然のことです。

慢性疼痛になりやすい、性格や思考パターンがあることは指摘されています。慢性の疼痛の場合、痛みが長く続けば続くほど、その痛み自体が心理的ストレスとなって心理的コンディションが悪化し疼痛親和的な思考パターンに陥ったり、抑うつ的になったりすることが指摘されています。うつ的状態では、単に、うつの症状として痛みが生じているのではなく、ある種の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)の低下によって、正常な疼痛抑制機構が低下し、痛みを感じやすい状態になっていることが知られています。

基本的に、慢性疼痛には、心理的な要因による痛みの増悪機構がある、また、慢性疼痛に親和性の高い思考パターンがあるということ、また、抗うつ剤系(セロトニン/ノルアドレナリン調節剤)が処方されたからと言って、それは、その人がうつ病だと決めつけられたのではなく、うつ病であろうがなかろうがにかかわらず、そういう薬剤が慢性の疼痛には効果があるのだということをご理解いただけたら幸いです。

睡眠時無呼吸症候群と治療抵抗性高血圧

3種類ほど血圧を下げる薬を飲んでいるのに血圧が目標値まで十分に下がらない・・・ような場合は、治療抵抗性高血圧などと呼ばれています。もちろん、生活習慣に極端な問題がある場合や、体内の水分調節や血圧に関与するホルモンなどの異常もありますが、意外に多いのが睡眠時無呼吸症候群が隠れている場合です。肥満などがあればいかにもという感じですが、下顎が小さい(短い)方、口を開けて除いたとき咽喉ちんこが低い位置にあって見えないような形態的要因がある場合には、必ずしも肥満はともないません。特に、早朝の血圧が高いタイプの方などは一度は疑ってみてもいいでしょう。家族の人に寝ている状態をみてもらって、いびきが大きいとか息が止まっている状態がしばらく続くとかいうのであればさらに疑いは濃厚です。今では、簡易検査として、家に検査キットが送られてきてそれを2日ほどつけて寝ますと、機械の中にデータが残りますので、それを送り返してもらうだけで診断できるようになっています。