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医療法人ラザロ会 江口クリニック

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院長コラム

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神経障害性疼痛

神経障害性疼痛ってなんでしょう?定義によれば、「体性感覚系に関する損傷や疾患によって直接的に引き起こされる痛み」とされています。要するに、体のある部分から脳に至るまでの感覚を伝える神経経路の一部が損傷されて引き起こされる痛みということです。したがって、腰椎の椎間板ヘルニアであっても、脊椎管狭窄症であっても、手根管症候群であっても器質的な神経痛であればみんな神経障害性疼痛ということになります。ただ、定義上は、そうであってもいま挙げたような神経痛は多くの場合、あんまりしんどいようなら手術してとってしまうことが可能です。こういう場合は、ことさら神経障害性疼痛という仰々しい名前を付けなくても、椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛と従来通り言っていればこと足りるように思います。わざわざ、神経障害性疼痛と呼ぶのは、帯状疱疹後の神経痛や脳梗塞や脊髄損傷後の疼痛のように、神経の不可逆的な損傷によって生じる難治性の痛みを指すのが実際のところと思います。難治性であり生活の質を低下させるこういった疼痛は、先進国では人口の1~7%、我が国では数百万人程度と見積もられていて、数年前から関心が高まっていました。こういった疼痛は、打撲などの外傷の急性期と全く異なり炎症というものが存在しませんので、消炎鎮痛剤(いわゆる痛みどめ)は効果がありません。現在、こういった疼痛に対しては、

① ある種の抗うつ薬 または Caイオンチャンネルリガンド

② 抗不整脈剤の一種

③あるいは 家兎皮膚炎症抽出液

④ 非麻薬性鎮痛剤 ある種の抗てんかん剤

などを組み合わせて治療することになりますが、これらは残念ながら魔法の新薬ではなく、それぞれの薬にいろいろな副作用があり十分な量を服用できないことも多いせいもあってか、難治性であることが未だにしばしばです。根気よい治療が必要となります。

変形性膝関節症って?

実年以降では非常によくある病気で、国内では1000万人以上と推計されています。膝関節の軟骨がすり減った状態です。多くは、体重過多と加齢が主因のようですが、若い頃の外傷や脊髄や脳の損傷で半身筋力低下が原因となることもあります。立ちあがる時や階段昇降などに膝の痛みを生じ、進んでくると普通に歩く時にも痛むようになります。生活が非常に不便になれば手術が必要になります。たとえば、体重が増え、コレステロールや血糖が上昇し、医者から歩けと言われ、急にはりきってウォーキングを始めたりしたときなどによく発症します。

保存的治療・進行防止としては、

  1. 減量:なんといっても体重を落とすことでしょう。たまたま、他の病気で、不幸にして体重が減ってしまったりすると、気が付くと膝痛がましになっているというのはよくある話です。
  2. 下肢筋力強化:太腿周囲の筋力をつけることはとても大切です。早合点して、いきなりランニングしたり、スクワットなどやったりすると、かえって悪化します。膝に荷重(体重)をかけないようにしトレーニングしなければなりません。かなり体重の多いご高齢の方々では、プールでの歩行などは効果があるようです。当院では、リハビリ室に、四頭筋訓練装置をおいて頑張っていただいています。筋力が数値で示されるので、本人の意欲が高まって効果があるようです。
  3. 高分子ヒアルロン酸注入:変形性膝関節症では関節内のヒアルロン酸が減少していますので、これを補充することで軟骨を保護し、進行を抑える効果があります。また、関節の炎症を抑える効果もあるようで、比較的効果の出るのが早い治療です。急性期は週1回、慢性期には2~4週間に一度程度で維持します。約8割の方に効果があります。
  4. 装具治療:変形が比較的軽度で、立ち仕事やウォーキングといった立ち動作が多い方で、O脚気味の方には足底につける装具(靴の中敷きタイプもある)をお薦めしています。膝関節への荷重のかかり方を変えることが目的です。また、かなり進行した方で、年齢や合併症によって手術に危険を伴うような方には、膝装具を処方しています。

慢性疼痛とは?

神経障害性疼痛のテレビCMで、「ほうっておくと慢性化するかもしれません!」と言っています。慢性化したらどうなるのでしょうか?実は、「慢性疼痛」という医学用語が存在するのです。その定義は、「急性疾患の通常の経過あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み」となっています。ある病気の相場の期間を超えて長引く痛みということですね。通常の急性期の痛みとどう違うのでしょうか?

一般に、外傷などの急性疼痛が慢性化する要因として創部の瘢痕化が考えられています。瘢痕組織には痛みに関与する化学物質が増加しているといわれています。こうして増強された痛みが脊髄の神経細胞を刺激し、炎症を起因する化学物質を遊離させ悪循環を生じさせると考えられています。

また、痛みの伝達の中継所である脊髄レベルで、痛みが修飾を受けることも知られています。痛みを伝達する経路では、痛み刺激が持続すると正常では反応しないような弱い刺激に反応したりするような現象を生じます。さらに、それを感受する皮膚の領域も広がることも知られています。

さらに、痛みを認知する脳においてもその認知の仕方が変化していることがわかってきています。

まず、視床という部位では、急性の疼痛の場合には活動が活発化するが、疼痛が慢性持続すればするほど活動が低下するという報告があります。視床というのは身体全体の全ての感覚刺激が集まってくる場所ですので、痛みの刺激が入れば活動は活発化するのが普通です。にもかかわらず活動が低下する原因については、まだ、はっきりしていません。

また、アロデニアという軽微な知覚刺激で強い痛みを自覚する慢性疼痛の症状の場合、その刺激によって活動する脳の部位は、正常者で活性化する視床でなく、前頭葉などの他の部位であることが知られています。

さらに、上記の様なアロデニアを有する患者さんは、体の一部を触っている画像を見ただけで、正常者では痛そうな画像を見た時に興奮する前頭葉の一部分が活性化することも知られています。

つまりのところ、慢性疼痛という状態は、痛みが続いた結果、痛みの伝導経路や脳の認知に変化が起こり、非常な痛がり(些細な刺激でも痛みを感じる)ようになった状態といえましょう。

腰椎椎間板ヘルニア

坐骨神経痛の原因として一般的には、もっとも有名なものかもしれません。背骨(腰椎)と背骨の間にある椎間板という機構の内部にある髄核が周囲の隔壁を破って飛び出した状態です。これが腰の神経を圧迫して神経痛を起こします。力学的関係からか5個ある腰椎の下の方によく生じます。この場合には、坐骨神経痛(臀部~大腿後面~下腿~足へ放散するような痛み)を生じるのですが、中間あたりのヘルニアでは太腿の外側、上の方に出るヘルニアでは、鼠径部や大腿全面に痛みが出ます。手術するかしないかは悩ましい場合もあります。

絶対に、急いで手術しなければならない場合は、ヘルニアが巨大で通常のヘルニアの様に一本の神経にあたるのではなく腰椎を通る神経全部を圧迫し、排尿や排便に障害をきたし、下肢全体に麻痺が生じるような場合です。

それ以外は、手術するかしないかはケースバイケースということです。上記以外は命にかかわるような大きな障害がのこる病気ではないですから、患者さんの判断が優先されることになります。自営業で仕事を休めないという方で、神経麻痺があり足首が上に向かない状態で、手術を拒否され足首にバンドをまいて仕事を続けられた方もあります(仕事ができているわけですから問題ないといえば問題ないのです)。ただ、以前に比べて技術が非常に進歩しているため、典型的なものでは、背中を手指2本分ぐらいの幅を切るぐらいで手術できるようになり入院期間も短くて済みますので、仕事や日常生活に支障をきたすような痛みや麻痺が1か月以上も続くようなら手術を考えたほうがいいかな・・・というのが個人的な印象です。また、仕事は休めるがその期間を短くしたいという場合でも手術のほうが有利でしょうか。

ただ、典型的な例ではそうなのですが、下肢痛には心因性の場合も少なからずみられます。下肢痛がありMRIで小さなヘルニアがあり、強い痛みがあるというだけで安易に手術すると改善しなかったり、かえって悪化したりする場合さえあります。とても痛い場合でも、医師がMRIをみて少し首をかしげているようなら、あまり強く手術をしてくださいと迫らないほうがいいでしょう。

また、腰椎椎間板ヘルニアの場合、術後一年での同一部位再手術例は5%、10年では10%という報告もあります(私の個人的な経験では3回同一部位に再発した例はありません)。

激しい運動はともかく、日常生活が一応おこなえて、家事や仕事も休まずにできているなら保存的治療。とにかく早くケリをつけたい、仕事を休まなければならないような状態が1~2か月も続くようなら手術を考慮されたほうがいいでしょう。また、中位~上位にあるヘルニアはたいてい手術しなくても済むというのが個人的な印象です。

痛みは気のもの?

「痛みなんて気のものだ!」と言う人がいます。そうなのでしょうか?そもそも痛みってなんなのでしょうか?

国際疼痛学会の定義によると、痛みとは、「実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表わす言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験」であります。

よくわからない? ごもっともです。学者・専門家というものは、当たり前みたいな事をわざわざ難しく表現するものですから。私なりにもう少しわかりやすく言いなおしてみますと、例えば「(指が)潰れそうな」、「(指が)潰れたような」、「頭が割れるような」、「金槌で殴られたような」、「焼け火箸を押しあてられているような」・・・等、何か身体に危害が加えられているような、あるいは、加えられたようなといった表現で言い表されるような好ましからざる感じの経験、ということになります。よけいにわからない? 申し訳ありません。

つまるところ、痛みとはある人の感覚の体験なのですから、文字通り、痛みは気のもの、否、「気のもの」そのものということになります。ただ、一般的に「痛みは気のもの」という場合には、言外に、「ホントは痛くないのに大げさな奴だ!」という非難めいたニュアンスがあるようですが、この定義が言うところは全く逆です。例えば、坐骨神経痛がある。MRIを撮影したが何もない。「精神的なものでしょう!(本当は痛くなどないのだ)」などと医者が言うなら、非難されるべきは、痛みの定義を理解していない医者の方だというべきでしょう。だって、定義からして、精神的でない痛みなどないのですから。患者さん本人が「痛い」と感じているなら、それは現実に痛みがあるということです。逆に、膝の関節が腫れあがって、脚を引きずりながら歩いていたとしても、患者さんが「痛くはありません」と言うなら痛みは存在しないということです。

痛みは、全く「気のもの」なので、ご自身が「痛い」と感じられているなら御遠慮なく御相談ください。