様々な検査をしても原因となる組織的な病変が見つからないような慢性の疼痛は、心因性疼痛、組織病変のない自発性慢性疼痛などと呼ばれています。MRIを撮影して「何もないよ」、「気のものですね」といわれるような場合です。別にも書きましたが、これも立派な「疼痛」です。

ただし、「何もない」ということを証明するのは現実的にはかなり難しい場合もあります。MRI一つにしても、下肢の症状なら、腰椎・胸椎・頸椎・頭蓋内を撮らなければならないこともありましょう。また、単純MRIだけではわからないこともあります。上肢が痛み、「他院の頸椎MRIで何もないといわれた」と言って来られた方があります。確かに、MRIをみても何もないのですが、診察してみると明らかに一本の神経の症状が強く出ています。また、上半身を裸になってもらいますと明らかに一部に筋肉の委縮がありましたので、造影剤を使ったMRIをしてみますと、神経の腫瘍が見つかったケースがありました。MRIだけでなく、神経伝達速度や体性感覚誘発電位などの電気生理学的な検査が必要なこともあります。また、有機溶剤暴露や、ビタミン欠乏症など考えだすと実際の診察室で、片っ端からすべてをやりつくすというのも疑問ですので、必要に応じて追加していくようにしています。

また、ある時までは確かに心因性疼痛であった慢性下肢痛(MRIでも責任病変がなかった)方が、急に、坐骨神経痛を発症(少し症状が変化)したので、MRIを再検査してみると、今度は新たに椎間板ヘルニアが出現していたような例もありました。

私的には、ある程度は「火のないところに煙は立たない」的な見方が実際的なのかなと思っています。つまり、ある痛みを訴えるにはそれなりに、何らかの器質的な異常(非常に軽微な異常であって通常ではそれほどの症状をきたさない程度)があり、その僅かな異常信号を、なんらかの心理的要因で過敏になっている意識が認識してしまい、それに注目して痛みを膨らませていくという悪循環構造になっている。

「心因性」あるいは「組織病変のない」慢性の疼痛と考えられる例であっても、常に、何らかの隠れた器質的な病変が関与しているのではないかという意識をもっておかねばならないように思っています。