高血圧と認知症
高血圧が、アルツハイマー型認知症の危険因子の一つであることはよく知られた事実です。といっても、高々、1.5倍程度の危険率比にすぎませんが。頭の中の血管は、高血圧に弱く、高血圧が続けば頭の中の血管の動脈硬化によって隠れ脳梗塞が増えていって、当然、脳の働きが低下するので、それが加算されて認知機能も悪化するのは当り前ではないか!と言われるかもしれません。ただ、そういった単純なメカニズムにくわえて、記憶をつかさどる海馬のCA1セクターという領域が、他の神経細胞にくらべて特に虚血に弱いこと。さらに、最近の基礎研究では、脳虚血によって生じる物質がBACEを増加させAβ(アルツハイマー病の起因物質)を増加させること、また、Aβ自体が脳血管の自動調節能を障害するという独自のメカニズムも知られるようになってきたのです。ただ、もはや高齢になった段階で、過度に血圧を下げてしまうのはむしろ認知症を悪化させるので要注意です。あくまで降圧は中年期の若いうちからやっておかねばなりません。
また、最近、血圧を下げる薬(降圧剤)の種類によって認知症の進行に差が出る可能性があるのではないかという基礎研究の報告もあります。たとえば、ACE阻害剤という種類の降圧剤では、ACEがAβを分解する作用まで阻害され、結果的にはAβを増加させること、また、神経に保護的に働く作用のあるAT2という受容体も阻害してしまうので認知症を悪化させる可能性があるという報告が出てきています。まあ、実際の臨床の場で降圧剤を変えたところで認知機能に明確な差が出るという気は全くしませんが、毛の先ほどでも有利になるなら・・・、という気で降圧剤の選択をしています。