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医療法人ラザロ会 江口クリニック

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運動器

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腰部脊椎管狭窄症

腰椎のレベルで神経を取り囲む様々な組織(骨や靭帯や椎間板組織)の変化によって下肢に向かう神経が圧迫されて生じます。歩いていると腰や脚が痺れたり痛んだりします、腰を下ろしてしばらく休憩するとまた歩けるようになるという間歇跛行が代表的な症状です。自転車だと休まなくてもこぎ続けられるというなら、ほぼほぼ診断は決まりといってもいいでしょう。治療としては、血管拡張剤や神経性疼痛治療薬の服用が、まず、一般的なところでしょう。症状が強いならば硬膜外ブロック等も有効です。もちろん、痛みが出るような行動を避けることは重要です。

この病態では、椎間板ヘルニアのところでも書きましたように、腰を伸展させると症状は悪化しますので杖を突く、手押し車を押して歩くなど少し腰を前傾させたような姿勢で歩くのがいいのですが、ご年配の方にアドバイスしても、「恰好悪いのでいや!」と拒否されまた、移動は自転車に乗りましょうと言うと、「危ないので自転車には乗らない」と言われてしまい(実際、危ないのですが)、現実的にはなかなかうまくいきません。腰椎のコルセットも過度の腰部の運動を抑制する意味では有効でしょう。

さて、本病態で手術を考える場合には、以下の二つの要素を考えるのが良いと思います。椎間板ヘルアニの時には、創も小さく、背骨を削る必要もほとんどないため、長引くようならさっさと手術してしまうのがいいかもと書きましたが、本病態では、少し慎重になったほうがいい場合もあると思います。

まず、一つは、腰椎にズレがあるかどうかです。これは「腰椎すべり症」のように一目、背骨同士が前後にずれている場合と、背骨を前屈後屈させた時のずれが大きい場合(不安定症)等があります。この場合には、骨や靭帯を切除して神経の圧迫をとると同時に腰椎の固定術を合わせて行わなければなりません。背骨と背骨の間に骨を移植し、当面、外れない様に、金属のプレートで背骨同士を固定するというものですから、手術時間も長くなり、創も大きくなり、また、神経を損傷する危険性もあり少し慎重になるほうがいいかもしれません。私の個人的な感覚では、手術する方法としても、固定する場合は固定のない手術よりも3~5倍ほどしんどいかなと思っています。もう一つは、症状が典型的な間歇性跛行のように両側下肢に全体にでている(中心型な)のか、一つの神経の領域に限局してでている(外側型な)のかです。前者の場合は、手術の成績も大変よいので症状が強く薬があまり効かないのであれば、さっさと手術してしまってもいいと思います。後者の場合は、神経の圧迫部位が明確であればいいのですが、中にはその同定が難しい場合や、除圧が困難な場合も多く、手術の成績は前者ほど芳しいものではありません。可能な限りは、保存的治療で粘るのもよいかなと思っています。

頸椎症・・・腰椎症との違い

頸椎の椎間板ヘルニアと申し上げると怪訝な表情をされる患者さんもおられますが、椎間板ヘルニアといえば腰椎じゃないのか?という感じです。頸椎も腰椎も背骨に違いありませんから、変形性頚椎症もあれば、頸椎椎間板ヘルニアもあれば、頸部脊椎館狭窄症だってあります。脊椎の変形などの加齢性変化によってその中を通る神経が圧迫されるのですから、腰椎にみられるものはおおむね頸椎にもあるのです。極めて雑に言うと、腰が痛くなる代わりに首や肩が痛くなり、下肢が痛くなったり痺れたりする代わりに、上肢が痛くなったり痺れたりするだけの違いです。

背骨の動きによって悪化するところも同じです。腰部脊椎管狭窄症では、自転車をこぐなど、やや腰を前屈させると症状がでないと言いましたが、頸椎でもほとんどの場合、首を後屈させることによって悪化します。

腰椎の場合に、1本の神経が圧迫されて神経痛・麻痺をきたすタイプ(外側型)と神経の束全体が圧迫されて下肢全体の症状があるタイプ(中心型)がありました。頸椎の場合にも、同様に1本の神経の神経痛・麻痺をきたすタイプ(髄節型・根症状型)と頸椎の中を通る神経全体が圧迫されて症状をきたすタイプ(脊髄症型)があります。

さて、ここのあたりで少し話が違ってきます。腰椎の場合ですと中心型の場合は、圧迫されているのは末梢神経の束です。これはある程度可塑性もあり、不便を感じている患者さん本人が我慢できさえすれば、こちらから手術をしろという筋合いのものではありません。我慢して我慢して手術しても手遅れになるということはありません(程度問題ですが)。しかし、頸椎の場合は、圧迫されているのは末梢神経の束ではなく頸髄という部位です。これは、延髄(必殺仕事人が針を打ち込む部位)の下に続く部位で、中枢神経、すなわち脳味噌の一部になります。脳卒中(脳梗塞や脳出血)後、半身麻痺が後遺症として残ることはよく知られていることと思います。中枢神経系は一度損傷されると回復が難しいとされています。同様に、頚椎症の場合でも、あまり我慢を重ねて、症状が進行し中枢神経である頸髄自体がひどく損傷されてしまってから手術をしても後遺症が残る場合があります。こういう場合には、患者さんの苦痛がさほどでなくても、医師の方から手術したほうがよいと積極的に薦める場合もあります。

手根管症候群と肘部管症候群

手根管症候群と肘部管症候群は、日常の診察の中でよくお目にかかる病気です。手根管症候群は、手掌の手首に近いところにある手根管という正中神経の通り道が狭くなって手の親指側に痛みや痺れ、親指の運動障害を生じる病気です。一方、肘管症候群は、肘の部分で主に手の小指側に分布する尺骨神経の通り道が狭くなって小指側が痺れたり痛んだり、ひどくなると小指側の指が伸びなくなったり手背の筋肉が痩せてきます。

手根管症候群は、中年以降の女性に多く見られます。教科書的には夜間疼痛で目が覚めるとされていますが、経験的には日中の手の痺れ痛みで来られるほうが普通のように思います。痺れの部位と神経伝達速度を測定し、遅延を認めれば確実です。治療は、内服、手根管への炎症止めの注射、手関節の動きを制限する装具(寝ている間つけるだけでも効果がある)、手術です。痛みが許容範囲ならどんなに悪くなっても物がつまめない程度の症状ですし、比較的、治療によく反応するので、実際に手術に至るケースはそれほど多くはありません。

肘部管症候群の方は、やはり痺れ痛みの部位と、神経伝達速度の遅延で診断され、治療も同じようなものになりますが、こちらの方が、治療への反応が悪いようです。肘のところでの狭窄が厳しいのか、あるいは、肘に関しては手関節のような装具固定ができませんので安静が取れないことが原因だと考えています。この病気の場合、肘を伸ばすと神経の圧迫がゆるみ、伸ばすと圧迫が強くなるのですが。肘を伸ばしたままにしておくのは、日常生活で大変不便ですのでそういう形での固定ができないのです。また、手根管症候群と異なり、ひどくなると手指の運動障害や変形が強く大変不便になりますので、手術しなければならない場合もあります。

実際には、頸椎に変形などの所見がある場合(ある程度の年齢になれば皆あります)、それによるものと紛らわしい場合、また、両方が悪さをしている場合(ダブル・エントラップメント)もあり、頸椎のMRIなどの検討が必要になる場合もあります。早めの対処が望ましいと思います。